表紙はエレオラさんとヴァイトくんです。
あらすじ
公式より
帝位争いのなかで起きた「ドニエスクの乱」が鎮圧されてからしばらく、俺(ヴァイト)は北ロルムンドの名家の当主ボリシェヴィキ公と会っていた。
ボリシェヴィキ公といえば、ドニエスク家の最大の後ろ盾だったにも関わらず、先の乱で真っ先にエレオラ軍に投降してドニエスク家を裏切った人間。
そんな彼は、今度はエレオラ側とアシュレイ側の両方に声をかけているようだ。
こいつは一体……何をするつもりなんだ?そんな中、新皇帝アシュレイの姉ディリエの縁談が持ち上がる。
相手はなんと、ボリシェヴィキ公。
そして、新皇帝のための神聖な戴冠式の直後、ディリエは貴族たちの前で言い放つ――「私ディリエは、ボリシェヴィキ公シャリエ殿と婚約いたしました」ロルムンドの政情に、特大級の爆弾が落ちる――!
ロルムンド編、最後の敵が登場! 帝位は一体、誰の手に!?大幅加筆&書き下ろしストーリー「剣奴の勇者」を収録!
みどころ
ロルムンド編、大団円です。
「人狼への転生、魔王の副官」の性質からタイトルで「英雄の凱旋」とくれば、いやが応にもロルムンド編の大団円ということがわかります。6巻でドニエスク大公家の皆様との争いに決着が着きましたが、7巻ではロルムンド帝国のさらに深いところに入っていきます。新たな敵役としてボリシェビキ公爵が登場し、ロルムンド帝国の混乱は続きます。
さあ、夏至祭までには戻るというアイリアさんとの約束は守られるのでしょうか?
不思議と魅力のあるボリシェビキ公
6巻ではドニエスク公陣営からアシュレイ陣営に鞍替えしたボリシェビキ公。なかなかにつかみどころのない御仁ですが、随分と先が見えているようで、それが故の苦悩が垣間見えます。
序盤ではボリシェビキ公の動機が見えないため、なかなかに謎めいた人物のように思えます。しかしながら、中盤から後半にかけてボリシェビキ公爵家の使命がだんだんと明らかになっていくにつれてボリシェビキ公の人となりがわかってくるにつれて親近感が湧いてきます。
やり方に色々と問題はあるにせよ、ボリシェビキ公もロルムンド帝国の主要な人物に例外ではなく、私欲とは無縁の高潔な人物です。
徹底的に現実主義な輝陽教のみなさま
ロルムンド帝国は作中で触れられる「冷たいミーチャ」の逸話のごとく過酷な自然環境で生き抜くためにほとんどの人物が合理的です。それが宗教活動にも現れているように、ロルムンド帝国の輝陽教の皆様もことどとく合理主義者のようです。
作中に登場する大司教、枢機卿の皆様は宗教がなんのために存在するのかをしっかりと認識しており、以下のトゥラーヤ枢機卿の迷いのない発言など好感が持てます。
「もちろんです 。争いで人々が死に絶え 、無人の荒野に聖典だけ残されていても 、何の意味もありませんよ 。信徒と信仰を守れるのなら 、輝陽教は全てを包み込みましょう 」
とか、
「できますし 、できねばなりません 。輝陽教が今後も変わらずに続いていくためには 、変わり続けなければならないのです 。川魚が同じ場所に留まるために 、上流に向かって泳ぎ続けるように 」
とか、見識の高さがにじみ出ています。もう、アルスラーン戦記とはえらい違いですよ。でも、宗教家の本当に偉い人たちってこうであって欲しいですね。熱心な真言宗の方に怒られるかもしれませんが、自分の中では空海上人はこういう方だったのではないかと勝手に想像しています。
パーカーさん本気を出す
7巻のクライマックスではパーカーさんの久々の本気を見ることができます。
本気で死霊術を使うとだんだんと人間性が失われてしまうため、日頃、道化のように振舞っていますが、今回は弟のヴァイトくんのために一肌脱いで本気を出しています。「いやー、脱ごうにも僕には肌はないけどね〜」とか言ってそうですが。
ああ、こういう道化師が本気を出すと実はすごく強いとかいう状況って大好きです。ベタですけど、ベタがいいんだよ〜。
豪華読み切り3本立て
7巻では読み切りが3本立てで、そのうちの1つの特別企画「人狼への転生、魔王の秘書」は鴨鍋かもつ先生の「魔王の秘書」と本作品のコラボとなっています。
もう、この挿絵だけで大勝利ですよ。
本命の読み切り、ドラウライトさんの冒険譚「剣奴の勇者」が霞むくらいのインパクトです。是非、ご笑覧ください。
キラリと光る伏線回収のうまさ
今までもそうなのですが、作者の漂月さんは伏線の回収の仕方がとても上手です。この作品ではヴァイトくんの性格もあるのでしょうが、問題解決の落とし所としてあんまり凄惨なところに落ちて行かず、説得力のある範囲でメデタシメデタシで終わります。
昔は Munacky も人死にが多い作品とか世界が滅ぶ話が好きだったんですが、社会の荒波に揉まれたり、子育てでキレそうになったりしていると、楽しんでいる物語くらいは予定調和ですんなりと収まってくれるのは心地よいと感じるようになりました。歳ですね。